「傷も勲章」~車いすのつぶやき~(番外編)

私は車いすです。
ご主人であるご利用者のもとを離れて、メンテナンスにもどってきました。フットレストが柱にぶつかり少しゆがんだので、元通りに治してもらうためです。
隣にいるのは第9話に登場する尾上さんの座面が昇降する車いすです。あちらで作業を待っているのは第14話に登場する小野さんの階段移動用リフトです。
私たちはご主人のサポートに明け暮れる日々を過ごし、少々の休息のためにこの本社メンテナンスセンターにもどってきたのです。大きな故障や傷みでなくても、事故を未然に防止するという意味ではほんのわずかの不具合も見逃してはならない。ご本人、ご家族、それにヘルパーさんや、巡回の営業担当などの厳しい目でチェックされ、問題点が見つかるとすぐにここに送られます。
私たちのような福祉用具は、カクイックスウィングの鹿児島、宮崎両県下に散らばる営業所、サテライト、オフィス計19の拠点を通じて、各ご利用者のもとに納められます。言うまでもないことですが、それはそれは膨大な数になります。ですからメンテナンスセンターにも、毎日たくさんの福祉用具たちがもどってきます。
メンテナンス担当者は、私たちを1つひとつ厳しくチェックし、どうメンテナンスするかを決め丁寧に作業を進めていきます。もちろんすべて手作業です。
私たち福祉用具が直接ご利用者の暮らしを支えているとすれば、メンテナンスの担当者はまさに縁の下の力持ち。だれの目にも止まることはないのに、指先から思いを込めるような、気の遠くなるような作業を続けるのです。それは、安心、安全に、毎日を過ごしていただきたいという強い思いに裏付けられているのです。私たちに対しても、1日も長く活躍できるようにという優しい思いが伝わってきます。
ある担当者が言いました。
「新品のままの状態でここにもどってきた福祉用具を見るととても悲しくなる……。少々傷だらけ、泥だらけでもどってきた方が、ずいぶん使ってもらってるんだ、活躍してるんだってうれしくなる。メンテナンスにもやりがいがでてくる」
彼は使い込まれた福祉用具をまた、新品に近い状態にして、ご利用者のもとにお返しするのです。
彼のいちばんの喜びは、メンテナンス作業を終えた福祉用具がご利用者のもとにもどった時のご本人が喜ばれる様子を、営業担当者から聞くことだそうです。
「なかでも、ああ、新品みたいになったねという声を聞かせてもらうと、この仕事をやっててよかったって思える」と。
そんなメンテナンスの担当者のことばを借りると、私たち福祉用具にとっては「傷も勲章」なのです。
あっ、私の番がまわってきました。それではお先に。