ゆっくり歩くスピードで~電動カーのつぶやき~
(番外編)

ご主人であるご利用者は半年前まで自動車の運転をされていましたが、脳梗塞で倒れられその後遺症で左足が麻痺し車の運転ができなくなりました。ご本人は、「車の運転くらい」と自信をのぞかせましたが、ご家族は危ないからと説得を続け、ついに免許証を返上されたのです。
出会ったころのご主人は、私におおいに不満をお持ちでした。私のスピードが原因でした。私のスピードは時速2kmから6km。自動車との差は歴然でした。
「のろい!」
ご主人はいまいましそうに私に言われました。たしかに私のスピードはゆっくりかもしれません。時速2kmというとひとがゆっくり歩く速さ。4kmは普通の徒歩。6kmは早歩きということでしょうか。いずれにしても「歩く速さ」なのです。それ以上は出ないのです。自動車やバイクに乗り慣れたひとに言わせると、信じられないくらい遅い、そう感じられても仕方ありません。
でも、「自動車というものが速すぎるのだ」と考えたらどうでしょう。速すぎるから事故も起きるのです。速すぎると隣のひとと会話も楽しめないでしょう。ただ便利に移動するだけ。
私はまさにご主人の「足」なのです。ゆっくり歩くスピードで移動します。ほら、自動車で移動するとわからない風景に気づくでしょ。より遠くに、より急いで移動する必要があるときには、タクシーか運転手付きの自家用車でどうぞ。私は身近な距離を歩くように出かけるときにどうぞ。
ご主人の「のろい!」は最近聞けなくなりました。ちょっとした楽しみを見つけられたのです。中学生のお孫さんとの散歩です。ゆっくりいろんなおしゃべりを楽しみながら、たっぷり時間をかけて。
〈車に乗っていたときには考えられなかった時間〉
お2人が並んで歩く後ろ姿を私は見ることができません。でもきっと楽しいんだということは、笑い声でわかります。
出会ったころにくらべると、心なしか大切に扱われている。そんなふうに思うのは私の気のせいでしょうか。
【ご注意】
電動カーは、道路交通法の規定によると歩行者とみなされ、歩道を走行しなければなりません。運転免許は必要ありませんが、弊社では、レンタル・販売時には事前に福祉用具専門相談員による適性判断・安全操作指導を行い、安全安心にご利用頂けるようにように努めております。
正しい操作をすれば安全な福祉用具です。
交通マナー、ルールを守りましょう!