無理なく末永く、
適切な支援は残された時間への投資#23


「なんとか義母を家に連れて帰ることはできませんか」
あなたは私共の最初の言葉を真正面から受け止めていただきました。
平成4年に54歳の若さで主人を亡くし、77歳の義母との2人暮らしがはじまりました。私が53歳の時でした。
ところが、3年後の冬の朝、義母が脳溢血で倒れてしまいました。
以来義母は病院のベッドの上での生活。私は自宅と病院を往復する毎日でした。義母の口癖は「家に帰りたい」、ただそれだけでした。病院の看護師さんには、すべて任せてもらっていいですよとおっしゃっていただきましたが、「身の回りの世話は嫁に」と誰にも体に触れさせませんでした。近くに主人の妹、義母からすると実の娘が住んでいたのですが、「あれは人の嫁にやったから」とすべてを私に頼ったのです。
主人との暮らしは幸せな日々でした。2人の息子にも恵まれ、その息子たちも独立して故郷を離れそれぞれ家庭をもちました。主人とは定年後はのんびり暮らしましょうねなどと話し合っていたのが幻のように思われていました。私の老後は、義母の介護に明け暮れるのかと。それならいっそのこと、義母もそう願っていることだし、自宅で自分の時間に合わせて介護した方がいいかもしれないと思ったのです。
新しい介護保険制度になり義母は要介護4と判定されました。ベッドの上に座ることもできないし、寝返りを打つこともできませんでした。動いたのは右手と頭部。ただ認知症はなく言葉を発することもできたし、嚥下も問題ありませんでした。お医者様に相談しましたら、症状は安定しているし、リハビリをすれば高齢だけれど機能回復の可能性も十分ある。在宅での介護も不可能ではないと言われました。ただ、介護するのが嫁である私1人であることが心配だと。
でも私共はみなさんの人の輪に救われました。お医者様、看護師さん、作業療法士さん、訪問看護ステーションのケアマネージャーさんの間でいろいろとご検討いただき、丁寧なご説明もいただきました。自宅にいながらちゃんと継続してお医者様に見ていただくこと、義母本人にも私にも負担にならない介護の計画、そして在宅での暮らしが少しでも長く快適に過ごせるようにリフォームしたり、福祉用具を準備したり、それはそれは私にとっては目が回るようなお話しでした。そういうことがちゃんとできないと義母が病院に戻らなければならないだけでなく、私も共倒れになるかもしれないと言われたときには、大変なことをしようとしているのかも知れないと、本当のことを言うと少し後悔しました。
そんな不安な気持ちを楽にさせてくれたのが、何度目かの相談の際に初めてお目にかかったあなた様のお言葉でした。福祉用具専門相談員という専門の方がいると知ったのもそのときが初めてでした。
「なんとか義母を家に連れて帰ることはできませんか」という私の言葉に、あなた様はこう答えられました。 「大丈夫です。ご自宅でゆっくり静養していただけますよ」と。そしてこうも言われました。「奥様には決して無理をしないとお約束いただけますか。お2人が無理なく末永く暮らしていただくということが、福祉用具を提供する私たちのいちばんの仕事なのです」
相談の過程でいろんなこともわかってきました。福祉用具を借りたり訪問看護や訪問入浴を利用したりで介護保険適応の限度額を超え全額自己負担なる場合があるし、住居自体も手直しが必要になる等々。義母は「私のことに余計なお金をかけなくていい」と言ってくれました。ベッドでも「自己負担のいちばん低いものでいい」と。しかしあなた様は、「ご家族の肉体的、精神的ご負担や、リハビリ時の使い勝手を考えると一番いい機種を選ばれるのが賢明です」とアドバイスいただきました。
また2人の息子たちも、わずかですが主人が残してくれた財を義母と私の将来への投資だと思って使ったらいいよと言ってくれました。心を決め、皆様とのご相談を重ね、自宅に戻るまでに2年の時間をかけて準備をしました。
それでも自宅で療養生活をはじめた頃は、義母は私の姿が見えなくなると大声で名前を呼びました。トイレに入るときと、入浴以外は24時間一緒の暮らしでした。それこそ夜はベッドを並べて手をつないで眠ったこともありましたが、皆様のご支援のお陰で、最後は車いすで散歩にも出かけられるようになりました。
そんな義母も88歳で亡くなって、今年7年忌を迎えます。振り返れば、義母との2人暮らしはつらいこともありましたが、幸せな思い出の方が多く感じられます。何よりも幸せだったのは、義母が自宅で、私の腕の中で息をひきとったことです。
私はあなた様が義母の葬儀の折りにかけてくださった言葉が今も忘れられません。
「お疲れさまでした。でも、実の親子みたいにおたがいに信頼されてましたね」これは私のこころの宝です。
私は今長男夫婦の世話になっております。とてもいい嫁に恵まれておりますが、折りにつけ義母のことを思い出します。そしてこう思うのです。
「私はいい姑だろうか。いい嫁になるより、いい姑になる方がむつかしい」と。
長々と失礼いたしましたが、義母の7年忌にあたりあなた様のことを思い出しましたので、筆をとりました。御健康でご活躍を。

ご葬儀の後、提供していた用具を引き取った時、最後に握手を求められました。苦労と同じだけのしわが入っているように見えましたが、その手は握ってみるととても暖かく、柔らかかったことを今も覚えています。

福祉用具をレンタルしたり販売したりする場合に、選び方や使い方についてアドバイスをする専門職です。介護保険制度では「福祉用具」も保険給付サービスのひとつですが、これを提供する事業所には2名以上の「福祉用具専門相談員」を配置することが義務付けられています。介護保険の制度下で、支援が必要な障がい者や高齢者に対して、計画的に適切な福祉用具サービスを提供するために欠かせない存在です。