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  • 車いす (20)
  • ラストダンスは私に

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    そうだ、京都へ行こう!後編

    そうだ、京都へ行こう!前編

    “What I can(私たちにできること)”

    ぼくは絶対にお医者さんになる

    この「不便」は「強み」でもある

    「桜の時期」に揺らぐ心

    ありがとう、千本イチョウ。

    若い日の妻に会うために

    ゆっくり歩くスピードで(番外編)

    自分に何ができるか

    「だれのために?」~車いすのつぶやき~(番外編)

    「傷も勲章」~車いすのつぶやき~

    「わがまま」が生み出す豊かさ(下)

    「わがまま」が生み出す豊かさ(上)

    安全・快適は危険と隣り合わせ

    希望と勇気を支える福祉用具

    父の日課

    「自立」はもちろん「役立つ」こと

    ADL とQOL のはざまで

  • 歩行器 (5)
  • 〈パルちゃん〉の使命

    歩行器だってうれしそう

    加治屋町日記(2)福祉道具は優しさの結晶

    「手厚い介護は手でするもの」

    いくつもの「イヤ」を乗り越えて

  • 手すり・スロープ (6)
  • おじいちゃんセンセの「トオセンボウ」

    1本の手すりから生まれる希望

    逆転の夫婦~支え合うことで元気に暮らす~

    福祉用具の力はどこに現れるのか

    見守り、支える存在に

    無理のない人間らしい生活を支える

  • リフト関連 (5)
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    「吊り下げるよりほかあるまい」

    いつまでも、2人で暮らしたい

    リフト導入による生活範囲拡大

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  • そうだ!〈転ばぬ先の知恵〉だ!

    若い人には負けないわ

    希望の輪

    あきらめない、あきらめさせない

    尿もれパッドで知った ありのままの自分

    みんなありがとう

    臭いのモトは

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    自立しながらみんなで生きるということや 後編

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    ~白杖のつぶやき~(番外編)

    ぼくの社会貢献

    何がいちばん大切か……

    あらためて「福祉用具の力」を考える

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    キャッチボールの大切さ~屋久島オフィスを取材して~

    より高い専門性のために

    「今」を困っているご利用者のために

    奄美豪雨災害 その時私たちはどう動いたか

    無理なく末永く、適切な支援は残された時間への投資

    「ありがとう」の力

    普通のことをあたりまえに

    「ありがとう」を夫婦で共有する

    加治屋町日記(1)

    「苦労」と「喜び」と「達成感」

    ずっと自分の足で歩きたい

    母の介護人生から学ぶ

【テーマ別】
  • 適切な支援 (13)
  • おじいちゃんセンセの「トオセンボウ」

    「桜の時期」に揺らぐ心

    当たり前と勘違い おむつから見えてくること②

    「桜の時期」に揺らぐ心

    見守り、支える存在に

    無理なく末永く、適切な支援は残された時間への投資

    自分に何ができるか

    「わがまま」が生み出す豊かさ(下)

    「わがまま」が生み出す豊かさ(上)

    安全・快適は危険と隣り合わせ

    希望と勇気を支える福祉用具

    ADL とQOL のはざまで

    リフト導入による生活範囲拡大

  • 自尊心 (6)
  • 若い人には負けないわ

    臭いのモトは

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    母の介護人生から学ぶ

    いくつもの「イヤ」を乗り越えて

    無理のない人間らしい生活を支える

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    あきらめない、あきらめさせない

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    食べたいという意欲がわく大切さ

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    人生を支える思い

    寄り添うことの大切さと難しさ

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    奄美豪雨災害 その時私たちはどう動いたか

    人の役に立つということ

    「ありがとう」を夫婦で共有する

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    「苦労」と「喜び」と「達成感」

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    あらためて「福祉用具の力」を考える

    受け入れる力と介護する力

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    加治屋町日記(1)

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  • キャッチボールの大切さ~屋久島オフィスを取材して~

    より高い専門性のために

    「今」を困っているご利用者のために

    奄美豪雨災害 その時私たちはどう動いたか

    人の役に立つということ

    「ありがとう」を夫婦で共有する

  • 福祉用具(6)
  • 何がいちばん大切か……

    加治屋町日記(2)福祉道具は優しさの結晶

    ありがとう、千本イチョウ。

    ゆっくり歩くスピードで(番外編)

    「だれのために?」~車いすのつぶやき~(番外編)

    「傷も勲章」~車いすのつぶやき~

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    「だれのために?」~車いすのつぶやき~(番外編)

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そうだ!〈転ばぬ先の知恵〉だ!#69

2021年8月5日更新 [ その他 ][ 気づき ]

 

元地方公務員 山元正博(仮名/77歳)

私は元地方公務員の77歳。5年前に妻に先立たれてからずっとひとり暮らし。幸い嫁いだ2人の娘は同じ鹿児島市内に住み、頻繁に顔を見せあれやこれやと世話をしてくれます。年寄り扱いされるのが少々面白くありませんが、それなりに幸せに暮らしています。
少し前のことです。長女が新聞の切り抜きを持ってきました。なんだと思って手に取ると「転ばぬ先の知恵」という新聞広告でした。
〈高齢者は自分の身体機能の低下=老いを受け入れられない〉
〈福祉用具を使うのが恥ずかしい〉
〈福祉用具が必要になってからでは遅い。選択にも使うにも余計に難しくなる〉
などということが書かれていました。

娘が持ってきた新聞広告

実は私、数年前から脊椎管狭窄という病気に悩まされていたのです。
背骨の中を通る脊髄からの神経の通り道を脊柱管といいますが、脊柱管狭窄とはこの脊柱管が骨や靱帯、椎間板の突出などで圧迫を受け狭くなることを言います。原因には加齢変化のほか、背骨のずれや椎間板ヘルニアなどでも起こります。

症状としては歩いているときや立っているときにお尻から足にかけての痛みや痺れがあります。歩くと痛み痺れがひどくなり、休むと楽になります。前かがみになるとちょっとましになります。だから歩くときは自然に前かがみになります。ちょっと不恰好ですが、仕方ありません。でも大きく前にかがむと激しく痛みます。
主治医からは手術の必要はなく、痛みを訴えても痛み止めの注射を打つか薬を飲むくらいのことです。ほかには腹筋背筋をつける体操、つまり予防的な意味も含めてのリハビリですね。あとは転んだり、尻もちをついたりという事故を防ぐための注意を怠らないことを強く言い渡されました。特に階段を下りるときは一段一段右左と下りてから次の段へ。片手には荷物持って片手は必ず手すりへ。両手は絶対に塞がないようにと厳しく言われましたし、自分でも十分注意していました。

私の中ではひとつの思いがありました。これはそもそも病気なのだと。不幸にして病気になってしまったからこそ起きた不自由であり痛みなのだと。しかし娘たちは違いました。これは〈老い〉が原因なのだと。〈老い〉によって引き起こされた病気なのだと。その上でやれ「外へ出るときは杖を持って歩け」とか「電動カーに乗ったらどうか」とかすすめるのです。
私のことを心配してくれているのはわかるのですが、当然私は面白くありませんでした。人を年寄り扱いするんじゃない!と。杖なんか持って歩けるか! ましてや電動カーなんかに乗れるか!と。

そんな私がよほど危なっかしく見えたのでしょう。娘たちはいろんな体験談の載った本や、情報誌を持ってきては置いて帰りました。もちろんそんなもの、目を通すまでもなく放りっぱなしにしていました。
でもこの新聞広告はちょっと違いました。写真のステッキの握り手が気になったのです。

実はその数日前、数年ぶりに会った同い年の友人がステッキをついていたのです。それがとてもおしゃれなステッキだったのです。私がそれを見て、驚いたように「ほうっ、ステッキか」と言うと、彼は照れたように「歳だな。足元がおぼつかなくて」と笑いました。しかしその姿は歳を感じさせるようなものではなく、おしゃれでいい歳のとり方をしているなと思わせるものでした。「君は大丈夫かい?」と聞く彼に、「いやいやご同様だよ」と苦笑いを返すことはできても、脊椎管狭窄で悩んでいるとはついに言えませんでした。でも、私の歩き方を見て、ずいぶん老け込んだと映っているに違いないと思いました。

おしゃれなステッキなら持ってもいいかな。それで前かがみに歩くのがましになれば……。そんなことを考えていたのです。ステッキの広告ではありませんでしたが、読んでみると「なるほどね」と思わせてくれる内容でした。
「私もステッキを持ってみようかな」
そう言うと娘たちは大いに驚きましたが、次の休みに一緒に専門店をのぞいてみようということになりました。ことわっておきますが、それでもなお福祉用具専門のお店ではなくステッキを扱っているお店という意味でした。ステッキはいいけど、杖はいやだ。そういうことでした。私の中で〈ステッキ=ファッション〉〈杖=老いのための補助具〉という構図が出来上がっていたのです。杖をつきはじめると、すぐに歩行器にすがりつきそうで……。

そんな私ですが、実際に杖とステッキの専門店をのぞいてみて驚きました。その品揃えは私が想像していた以上のものだったのです。
「常時300から400種類の杖を揃えています」販売員さんは胸を張るように言いました。つまり服を選ぶように、オシャレアイテムのひとつとして選ぶことができるような感じなのです。「杖=老人というイメージが強いですから、そんな先入観を払拭するようなおしゃれな杖や、若い人たちにもかっこういいなと思ってもらえるような杖まで、幅広い年齢層と用途でご利用いただきたいと思っています」と。その店は杖の専門店ということで、後で知ったことですが、そこには福祉用具の「歩行補助杖」は置いていませんでした。
そこで私は英国紳士が持ち歩くような木製のステッキを購入しました。販売員さんのすすめもあり杖先にゴム製の滑り止めを付けましたが、ほんとうのところそれも気がすすまなかったのはお分かりいただけると思います。

ともあれ私とステッキの、文字どおり2人3脚がはじまったのです。ステッキをつきながら悠然と歩く自分の姿は、けっこう様になっているような気がして、その気分だけで前を向いて胸を張って歩けるようになったのではないかと思います。ステッキの効果てきめんですね(笑)
ただ困ったことがいくつかありました。ひとつはステッキがオシャレすぎて、近所のコンビニに買い物に出かけるにも服装に気を使わなければならないこと。さすがにジャージでは外に出られませんね(笑)
ふたつ目は高さがちょっとしっくりこないと言うか、微妙に合わないこと。この高さ、杖の長さですが、もちろん実際についてみて確かめはしましたが、娘や店員さんの見た目の印象とついて立ったときの感覚で決めました。フィーリングを頼りに決めたのです。販売員さんは「調節しますのでいつでもお越しください」と言ってくれましたが、ちょっとフィーリングが合わないので調節してほしいとも言い難いので……。長女は「いい歳をしてそんなに格好をつけてどうするの。格好を気にせず安全に、がいちばんでしょ。後期高齢者なんだから」と笑いますが、それがまた私は気に入らないのです。
さらに、両手を使いたくてステッキを立てかけたときにすべって倒れるということです。それを拾い上げようと前かがみになると腰のあたりに激痛が走るのです。これにはとても困りました。そこまでは思いも及ばなかったということです。なにせ杖など使うのははじめてのことですから……。

ある日のことです。近所のパン屋さんに出かけた時のことです。私の前にレジに並んだ女性が、花柄のかわいい杖をついていました。年齢でいうと私より少し若いくらいでしょうか。時折そのパン屋さんで見かける女性でした。彼女は支払いの時に右手で持っていた杖をそのまま放したのです。
「あっ!」
私は小さく声を上げてしまいました。杖が倒れると思ったからです。
ところが杖は倒れませんでした。よく見ると、杖先が4点に分かれていて自立するようにできていたのです。なかなかうまくできているものだな。私は密かに感心していました。すると彼女が私を振り返ってこう言いました。
「おしゃれな杖をお持ちですね」
「いいえ、これはステッキです」と心の中でつぶやきながら、それでもそんなに悪い気はしませんでした。
「あなたの杖こそかわいいですね」と自然に返していました。
その一言がきっかけで、彼女をお茶に誘いいろいろと話をしました。もちろん「杖」についてです(笑)
彼女は私より2つ年下の75歳。私と同じ脊椎管狭窄に悩んでいました。そうして75歳になるのを機に介護認定を受けたそうです。要介護度で言うと要支援1だけど、そんな歳を感じさせずとても可愛いらしい女性でした。介護認定を受けていると言う話に私は驚いてしまいました。
「その杖はどこで買ったの?」
「これは買ったんじゃないのよ。福祉用具専門の会社でいろいろ相談して、レンタルしてるの」
「レンタル?」
「介護保険でね。自己負担額は月々150円程度ですよ。そのお店には福祉用具専門相談員という方がいてどれが自分に合っているか、どんな機能が必要か、何に注意しないといけないかって、細かくアドバイスしてくれて、高さ合わせなんかはミリ単位でしてくれるのよ」

私は彼女がすべてを受け入れているような、そんな軽やかな自然体がすごく素敵だなと思いました。
そうしてステッキでも杖でもどちらでもいいねと、それまでつまらないことにこだわっていた自分がおかしくなりました。自立する杖か……、一度試してみようかな。そんなことを思っていました。

「ああなるほど!」
私は改めて思いました。
「〈転ばぬ先の知恵〉ってこういうことだったんだ!」と。
知っていることと知らないことの大きな差。知らないことは知っている人に聞けばいい。それこそが、自分の日常を楽にできるし、豊かにできる入り口なのだと。 帰ったらあの新聞広告、もう1度取り出して読み直してみよう。
そうしてあの新聞広告の会社のショールームに一度彼女を誘って出かけてみよう。
なんだか楽しくなって、鼻歌をうたいながら自宅を目指しました。

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